【題名未定】
【ここに出てくる病名や症状はすべてフィクションとなります】ある日、僕の手首から零れ落ちた赤い一滴は輝きを放ちながら床に落ちた。
コツンと無機質な音が響き、僕は震える指先でそれを取り上げる。光を受け、角張った部分がキラリと輝きを放つ。
―僕は、血晶症だ。
×
昼下がりの診察室。白衣を身につけた男は深く椅子に腰掛けながら本のページを捲る。物語の主人公は血晶晶の青年。自らの身に起きた不治の奇病と日々向き合う・・・フィクションともノンフィクションとも取れる、リアリティのある日常系の内容だった。
【血晶症】
謎多き奇病の1つで、血が外気に触れると結晶化する未知の病。
発症する確率は不明、過去に読んだ医療の文献によると現時点で資料登録されている人数が500人ほど。これは今から89年前に初めて症状が発見されてから数えての人数であり、現代でこの病を患っているのは10人もいないといわれている。
類似の病気で【涙晶症】という物も存在している。
これは涙が外気に触れると結晶化する病であり、感情により色が変わるといわれている。この病の発症者は現在世界で1500人ほど存在していると・・・これは先月の文献で見たばかりだ。
「…血晶症か」
そう呟いた男は最後の一文に目を向ける。
『―その赤はとても美しく、とても憎たらしかった。』
血晶症の発症者から生み出された鉱石はルビーのような美しい赤と輝きを持ち、世間にはそれを鑑定する【血晶鑑定士】と涙晶症から生み出された鉱石を鑑定する【涙晶鑑定士】という資格や職業も存在する。
この鑑定士たちは医療関係企業所属の鑑定士と個人・一般企業に所属する鑑定士がおり、発症者から生み出された鉱物が「本当に血晶・涙晶なのか」を鑑定する。それが本物ならば取引が行われ、医療関係者は研究所へと譲渡するが、一般企業や個人鑑定士は闇市へ流す物もいると聞く。
血晶・涙晶の真贋鑑定自体は簡単で、生理食塩水の中に入れるとどちらも溶解し本来の液体へと戻る。その為鉱石の一部を削り壊し、欠片を生理食塩水に入れ、溶解したものが本当に血液や涙なのかをそこから分析していくというシンプルのように見えて知識が必要な物だった。
「・・・さて、と」
読み終えた本を閉じ、男はデスクの引き出しから1枚の封筒と便箋を取り出した。ペンケースの中から黒の万年筆を取り出し、まずは封筒の左上に郵便番号を書いていく。もう何度この数字を書いたかわからない。黒のインクで少し丸みを帯びた数字を書けば、一度インクが乾くまで手を止める。1分ほど待ってから指の腹で書いた文字の上を優しく撫でて擦れがないのを確認すれば、封筒の少し右寄りに送り先の住所を記入し、同じように乾くのを待ってから中央に名前を書いた。
【絡繰映写出版社 宝玉涙様】
絡繰映写は写真集や映画・映像関係に強いメディア会社だ。その子会社に出版社があり、ここ数年で大きくなったがまだまだ新しい会社であり、親会社がメディア関係なこともあって最近は自社から出た本の映像化が増えているような成長中の企業だった。
名前のインクを乾かす間にスマホを手に取り、顔認証でロックを解除すれば指先でスマホの画面を操作し、1枚の写真を表示させる。
それは1枚の便箋の写真。一番上には「望月光様」と女の子のような丸みのある文字で書かれ、そこから下はまるで友達同士が手紙交換をしているような内容が書かれていた。 二本の指で写真を少しだけ拡大させ、文面を読みながら手探りに封筒を横によけて便箋を手元へと引き寄せれば一番上の行に「宝玉 涙様へ」と書き込んだ。
×
涙さん、新刊読ませていただきました。
まさか新シリーズが「血晶症」を題材にした物とは少し驚きです。興味深くも主人公の青年が今後何を思い過ごしていくのか・・・どんな内容が書かれていくのか。 第一巻、続きが気になる終わり方でした。
題材が題材な為、資料を集めるのも苦労したのではないでしょうか?
もしよければまた裏話を伺わせてください。
あと、いただいたお手紙の中で体調がよろしくないと書かれていましたが大丈夫でしょうか。ここ数週間で急激に気温が下がったのと最近雨が多いため、あまりにも優れないようでしたら病院へかかることを医療関係者として強くおすすめいたします。
では、またお返事楽しみにしております。
お体に気をつけて、頑張ってください。
望月 光より
×
連日の雨の合間を縫った珍しく雨の降っていない夜。桜都の中心に近い場所に建つ高層マンションの自動ドアをくぐった光は自分の部屋の番号が書かれたポストを開いて、1つの封筒を手に取った。淡いピンク色の封筒には「神坂弦」と書かれている。その場で開けたい気持ちを必死に押し殺しながら早足にエレベーターへと向かうも、階数表示には「15」と書かれ、その下には上矢印。当分戻ってくる気配はない。
「・・・はぁ」
上ボタン押すことなく、足を向けたのは外階段。正直院内で歩き回った足で14階へ向かうのはキツいが手元の封筒がその苦行を耐える力を与えてくれる気がした。1段飛ばしに階段を上がり、数分かけて16階へと到達した時だけは毎回「普段から体力と筋力をつけておいてよかった」と思える。扉からマンション内部へと入り、自室のある1610号と書かれた角部屋の鍵穴に鍵を差し込んで解錠し中へ入る。玄関先に鞄を置き、封筒に貼られたバラのシールを丁寧に剥がしながらリビングへと入ればソファに腰掛けながら便箋を抜き取った。
望月 光様と愛らしい字で書かれた自分の名前に頬を緩めながら一文字一文字じっくりと時間をかけて読んでいく。
×
望月 光様
私の新刊を手に取っていただき、ありがとうございます。正直血晶症を題材にしてよい物かと悩むこともありましたが書いた以上丁寧に、読者の皆様のご期待に応えられるよう書き上げていきます。
資料や文献を集めるのに半年はかかりました。今でも新しい情報はないかと探しています。
もし、光さんが何か詳しく知っているようでしたらお伺いしてみたいですね。
私の体を心配していただきありがとうございます。
暖かくしていると調子も少しマシになるので、なるべく体を冷やさないように気をつけます。
光さんもお体にお気をつけて、お仕事頑張ってください。
お返事、楽しみにしています。
神坂 弦より
×
「かわいい字だな」
思わず本音がこぼれる。
もう何度手紙を交わしたか・・・きっかけは医者になって1年目の頃、理想と現実の大きな差に打ちのめされ、医者をやめようかと思っていたときだった。
何となく立ち寄った本屋に平置きされていた「あなたのがいたから僕は生きている」と書かれた1冊の本を見つけたのがすべての始まりだった。気づけばレジへと持って行き、帰りの電車の中で読み進めた。あの日は初めて駅を2つ乗り過ごしてしまった。
全297ページのオムニバス形式、1つ1つの作品で違う病気を扱い医者と患者の間で揺れる様々な感情や葛藤を繊細に描いた作品だった。すべての作品に共通するのは取り扱う病気が未知の病である「奇病」だった。
涙晶症、眼花症、密肉症など現代医療でもほとんど解明されていない・・・なぜ発症し、どうすれば完治するのか何もかもが未知の病を題材にしたこの作品に光は取り憑かれた。
何度も何度も読み直し、何度も何度も違う視点で感じ取る。診断を下す医者の立場、診断を下された患者の立場、初めて発症したときの不安や恐怖、希に見る奇病の症状に対し驚きと好奇心を感じる瞬間・・・まるで作者の宝玉涙自身がすべての病気を患い、実体験したかのように描かれていた。
「・・・それだけ上手いのか、それとも・・・・・・」
もう一つの可能性がふと脳内を過るもすぐに否定する。きっと資料や文献を読み込み、想像力とその文才がしっかりと発揮された結果なのだろうと。
俺は、そう思っていたかった。 Tobe Continue⋯?
あとがきなど
まだまだ未完、どころか構成すらまともに練ることのできていない書きかけの物語です。
思いついたものを思いついたように書いた結果、いや⋯おかしくね?みたいな部分もありますが、とりあえずコイツはこんな感じの話が書きたいんだな⋯位の感覚で見ていただければと思います。
多分、続くと思います。
もしよろしければ裏話も読んでいただけると嬉しいです。
まだまだ未完、どころか構成すらまともに練ることのできていない書きかけの物語です。
思いついたものを思いついたように書いた結果、いや⋯おかしくね?みたいな部分もありますが、とりあえずコイツはこんな感じの話が書きたいんだな⋯位の感覚で見ていただければと思います。
多分、続くと思います。
もしよろしければ裏話も読んでいただけると嬉しいです。